- クラウドをテーマにしたリレーインタビューの第 3 回は、IT と知財のコンサルタントとして活躍する栗原氏にお話を伺った。栗原氏は、クラウドの概念は経済やビジネスのメガトレンドに乗ったものだと見ている。
- ■クラウドはメガトレンドの 1 つ
- ─── 過去に IT では流行してはしぼんでいったバズワードがたくさんありました。クラウドはどうですか?
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クラウドは単なる一時の流行ではなく長期的に有効なメガトレンドの 1 つだと考えています。クラウドの推進要素を考えると 2 つあります。
- 1 つはサーバーの一極化による集中管理。データセンターの運営には規模の経済が働くため、大規模なものほど有利であり、安価で高いサービス・レベルの運営ができるようになります。ですからクラウドの基礎となる大規模サーバセンターの登場は、経済原理による当然の方向性といえます。
- そしてもう 1 つはアウトソースの流れです。多くの企業が、自社でやっても差別化できない部分をどんどんアウトソースしている。いわゆる選択と集中です。サーバーや業務アプリケーションの運用がアウトソースされていくのは、その流れによります。
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つまりクラウドは、「データセンターへのサーバーの集約」と「企業の差別化要素への特化」という 2 つの基本的メガトレンドと同じ方向性です。これが、クラウドが一時の流行ではないと考える理由です。
- 言葉としての「クラウド」は流行で終わるかもしれませんが、その本質が流行で終わることはないとみています。
- ■企業の採用には垂直スケーラビリティが課題
- ───企業がクラウドを利用する上で、いまクラウドに欠けているものがあるとすれば何だと思われますか?
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一般企業の情報システムをクラウド化する前提で考えると、サービス・レベル、特に可用性の保証がまだ十分とはいえないと思います。
- 例えば、典型的なクラウドである Amazon EC2 の SLA (Service Level Agreement) では 99.95% の可用性を保証していますが、これだとおおよそ (最大で) 1 年に 4 時間くらいはサーバーが落ちている計算になります。これで可用性が十分かどうかは検討の余地があるでしょう。
- それ以上に重要だと思われるのは、SLA が守れなかったときどうするか。いまのところ翌月無料になるとかその程度の補償です。そういったいまの汎用的なクラウド・サービスの SLA で、企業の情報システム部門がミッションクリティカルな情報システムを安心して載せられるか? というとまだ疑問が残るでしょう。
- では、やはり全部社内で業務アプリケーションを運営するのがいいのか、というとそうでもなくて、自社のシステムをデータセンターにハウジングしてもらうというソリューションもある。それをクラウドと呼ぶかどうかは意見の分かれるところだけれど。そこまで含めてクラウドというコンセプトが含んでいると考えていいと私は思っています。
- ───クラウドのスケーラビリティはどうですか?
- スケーラビリティには水平スケーラビリティと垂直スケーラビリティがあって、いまのクラウドは水平スケーラビリティには強いけれど垂直スケーラビリティは十分ではないと見ています。
- ───いま企業の情報システムは、大型サーバーで動作させることを前提としているため、クラウドの得意分野とはギャップがある?
- そのとおりです。現在のクラウドが得意とする水平スケーラビリティは、サーチのような本質的に分散しやすい処理にはいいけれど、企業内コンピューティングで典型的な OLTP を効率的に処理できるかというと課題があります。クラウドの処理例でよくでてくる MapReduce 処理を見ても、企業コンピューティングの世界で通常行われている処理とはずいぶんタイプが違います。
- 集中されたデータベースに多くのプロセスが並行的にアクセスする OLTP のようなアプリケーションは高性能のマシンによる垂直スケーラビリティが必要になるでしょう。
- 例えば業務アプリケーションをサービスとして提供している Salesforce.com 社は、クラウド内でもそれなりの規模のサーバーを利用していると聞いています。
- ■企業内アプリケーションのポートフォリオ管理が重要に
- ───逆に、企業の情報部門がクラウドを利用するときに、情報部門側で超えなければいけないハードルはあるのでしょうか?
- それは、企業内アプリケーションのポートフォリオ管理をしっかりとやらなければいけない、ということだと思います。企業内のアプリケーションには当然ながらそれぞれ特性があって、その特性ごとに最適なシステム展開をしなければいけません。
- 処理をクラウド上に移転させるということはサービス・レベルをある程度犠牲にしなければならないため、そのような特性にあったアプリケーションを選択することが必要です。どのアプリケーションのサービスレベルが大事ですか、という質問に対して「全部大事です」ということでは問題でしょう。
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一般的に、クラウドで展開する企業内のアプリケーションとして最初に候補として挙がるものの 1 つは、Enterprise 2.0 系のもの、つまり、社内 SNS や社内ブログではないかと思います。こうしたアプリケーションは、展開時にどれだけ社内で活発化するのか予測しにくく、どれだけ初期投資すればいいのかの判断が難しいものです。このような特性のアプリケーションは、クラウドの従量課金制に向いています。
- Salesforce.com が営業支援的なアプリケーションを企業向けに展開したのも賢明な判断だったと思います。これも企業内では新規に展開することの多い、比較的タクティカルなアプリケーションであり、またどれだけ社内で普及するのかが見えにくい分野だからです。
- クラウドを使うときのメリットとして、すばやく展開できるという点がよく強調されますが、実はすばやく撤退できるという利点もあります。宣伝文句としては使われにくいのですが、結局社内でほとんど利用されないアプリケーションというのも実はたくさんあるはずで、その場合には余分なコストをかけずに素早く撤退できる、というのもクラウドの利点といえるでしょう。
- ■開発者は俊敏性によるバリューを
- ───SIer や開発者は、クラウドへの対応をどう考えればよいと思われますか?
- クラウドが出てきたから SIer の仕事が減る、ということはないと思います。それは、パッケージ・ソフトウェアが出てきたからといって SIer の仕事が減るわけではなかった、というのと同じ理屈です。
- ただこれからは、いちからシステムを構築するというモデルではなく、既存のサービスやパッケージなどを組み合わせてソリューションを構築し、俊敏性などでバリューを出す、という方向になるでしょう。
- 俊敏性でバリューを出すというのは、普通なら構築に 1 年かかるようなシステムを 3 カ月で提供できるようにする、といったことです。それからクラウドの場合には、提供後の運用フェイズでも、マッシュアップなどの軽量型のシステム統合など、継続的なビジネスが顧客との間で続きやすいのではないかと思っています。
- ───いまのところクラウドは OLTP が苦手だとすれば、そうではないデータの扱い方やデータベースの使い方もポイントのようですね。
- できるだけデータを XML 化しておくのがよいのではないでしょうか。XML にしておけば、後からでもエンタープライズ・マッシュアップなどの手法でデータを組み合わせて再活用しやすくなります。
- いままで SIer はアプリケーションの深いレベルでデータを扱い、連携させる処理を行う例が多かったと思いますが、これからはそういった密結合型から疎結合型への変化が目立ってきます。データの XML 化でそうした流れに備えられるはずです。
- ───海外のオフショアとの関係はクラウドによって変わるでしょうか?
- セキュリティ上の問題で、データは日本国内のデータセンターに置いて、海外からアクセスして開発や分析をしてもらう、という例もでてくるでしょう。もちろん利便性を優先して、その逆に海外のクラウドにデータを置いて、どこからでもアクセスして利用する、というケースもあります。
- いずれにせよクラウドの登場によっていままで以上に世界のフラット化は進むのではないでしょうか。
(2009 / 2 / 4 公開)
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<出演者紹介>
- 栗原氏は日本アイビーエム、ガートナージャパンのアナリストを経て 2005 年 6 月に独立。現在はテックバイザージェイピー 代表として、情報通信技術の先進動向、IT 投資、知的財産権に関するコンサルティング業務と弁理士業務を並行して行う。専門分野は、IT インフラストララクチャ、クラウド・コンピューティング、ソフトウェア特許など。近著に「グリーン IT」 (ソフトバンククリエイティブ)